失われた母と娘の81年ーアスペルガーからアルツハイマーへ
プロフィール: Kayさん、49歳、女性、翻訳家
私の一番古い記憶で自分の母親がオカシイと感じたのは、恐らく幼稚園の入園式の時だったと思います。黒羽織を着こみ楽しそうにおしゃべりするお母さん方(今でいうママ友)から一歩遅れて、独り言と言いながらつまらなそうに後をついてくる母の姿を、子供心に不憫に感じました。「他のおかあさんたちの仲間に入れないのかな」と。あとで祖母(母の実母)から聞いた話では、母は入園式には行きたくないと愚痴っていたそうです。「なんで、コドモのためになんか会社休むんだ」というのが母親の言い分でした。
また、遠足のとき、他のおかあさんたちの輪に入れない母は、私と2人だけで誰もいないベンチで弁当を食べました。祖母に育てられていた私は、母とは同じ家に住んでいても全く口を利くことがなったため(母は全くの育児放棄)、二人きりになって話すことに慣れていなかったせいか、彼女の言葉がよく理解できなかったことを記憶しています。産んだ子である私がいても眼中に無かったらしく、ずっと独り言のようなことを言っていました。私に話しかけている様子でもなかったため、返答のしように窮した私は、気づまりな中、無言で弁当をかき込むしかありませんでした。これほどさように、母親といると混乱するような子供時代でした。まだ、発達障害とかアスペルガー症候群という言葉が広く社会に認知されていない頃のことです。
母は、本家の一人娘だったため、「墓守り」のため子孫が必要という理由だけで、祖父母により無理やり二度ほど結婚させられました。その二度目の夫である私の父は私が小学校に入学してすぐに病死し、父の遺品は写真を含めて、死後すぐに処分されたので顔も知らないのですが、後から考えれば、父もこんな女性とは知らずに、騙されて「種付け」のためだけに婿入りしたのだろうと思うと気の毒になります。
このことから、アスペルガー症候群の子供に対しては、けして家族は結婚や出産を無理強いすべきではないと感じます。それは、本人や相手のみならず、生まれてくる子供たちにも重大な不利益をもたらすからです。私も一度「コドモなんて産みたくなかった」と、追い詰められた母から首を絞められ、殺されそうになったことがありました。
世間体を繕うとして、アスペルガー症候群の人たちの心を壊すようなことだけはあってはならないと思います。そうでなくても、アスペルガー症候群の人たちは、子供時代から「普通と違う」ことからイジメの対象にされ、ますます心を閉ざし、うつ病など2次的な疾病を引き起こすことがあるからです。
ちなみに、現在81歳の母親がアスペルガー症候群だと診断されたのは2年前でした。それまでは、精神科に連れて行こうとしても、当日に逃げ出してドタキャン続き。お手上げ状態だったのですが、年を取ったせいで、ようやく診察してもらうことに成功。ですが、医師からは「アスペルガーではあるが、それよりも認知症の症状が現れている」と告げられました。そのため、今後はアスペルガー症候群よりも、認知症に対応した治療が必要だと告げられました。来るのが遅かったようです。また、その時の医師が「まぁ、馬鹿につける薬はないと思ってください」と言い放ったのをよく憶えています。地域にもよるのでしょうが、発達障害を軽視する医療機関もあるようです。
現在、要介護1の彼女は相変わらず、自分のペースを死守し、それが少しでも壊れると取り乱すことを繰り返しています。ただ、「おばあちゃん」になったことで、それまでの異常行動に対して冷ややかな目を向けていた世間様が、ボケちゃったおばあちゃんというように、一転して奇妙な憐れみに満ちた目で母のことを見るようになったのがせめてもの救いです。
発達障害について、もっと周りの人間に知識があり、暖かい目で母の「個性」を見守るだけの寛容さがあったなら、ここまで依怙地で自分の世界だけを大切にして孤独に死んでいくこともないのにと、ふと寂しくなることがあります。
連日、ニュースをにぎわす悲惨な幼児虐待の話など聞くと、その背後にアスペルガー症候群など無かったのだろうかと、気になるのは私だけではないと思うのです。
スポンサーリンク
関連ページ
- 心理テストを受けたらアスペルガーと診断
- 周囲も大変だけどそれ以上に本人が大変だと実感しました
- 子供と同じクラスにアスペルガー症候群の子供がいます
- アスペっ子育児
- アスペルガー症候群は治せます
- アスペルガー症候群は解決できます
- 仲間を見つけようー自分の身の回りの人の中から
- 大人になってからのアスペルガー
- 見通しをつけることを第一に
- 知識をつけて不安を解消する
- 顔を見る習慣づけ
- お世話係にして人に関心を持たせる
- 勉強は家庭で、学校では社会勉強を
- 書き順を注意されるのは今だけなので、この際気にしない
- 大人のアスペルガーと働いた時のこと
- 子供がアスペルガーじゃないかと思ったら
- アスペルガー症候群の娘とのつきあいかた
- いじめられやすい原因
- 手持無沙汰
- 複数動作の難しい体が不器用な子
- アスペルガー症候群との歩み
- 自身のアスペルガーとしての体験からの助言
- 【アスペルガー症候群体験談】普通の人とはすこし違う視点でみていく
- アスペルガーとうまく付き合っていくには
- 同じアスペルガー症候群でも全く違う2人
- 普通とちょっと違う?判断の難しいアスペルガー症候群
- アスペルガー症候群は個性のひとつ
- アスペルガー症候群『5歳息子(幼稚園年長児)の場合』
- もっと知ってほしいあの子達のアスペルガー症候群
- アスペルガー症候群の知人を通して学べたこと
- 【アスペルガー症候群体験談】他の人と何か違う私
- 目に見えない障害・アスペルガー症候群
- 歯科医になったアスペルガー
- アスペルガー症候群の方への声かけの仕方について
- アスペルガー症候群の生徒と関わる難しさ
- アスペルガー症候群は、成功する人に多いです
- アスペルガーの夫との付き合い方
- アスペルガー症候群の生きにくさと適材適所はどこにあるのか
- 【アスペルガー症候群体験談】学生時代の仲間
- 当事者が仕事でミスをしてしまった時に叱るだけでなく、こうして欲しいと感じたこと
- アスペルガー症候群でも活躍している
- アスペルガー症候群当事者の自分が得意なことと苦手なこと、良い部分を発揮するには
- 愛されキャラ
- なかなか友達が出来ない!変わり者
- 就職活動をするにあたって知ったこと
- アスペルガー症候群のカップル
- 明らかに遺伝だなと思いました
- 生活しやすい環境にするには
- 割り振り方を工夫する
- 紙に書けば少しマシになる
- アスペルガー症候群は早く自分の特性を知ることと人間関係の整理で生きやすくなる
- 私と私の弟は若干アスペルガーの気質を持っています
- アスペルガー症候群の先輩
- 当初から秀でていたこと
- 職場の上司がアスペルガー症候群でした
- 個性的だけどとても素直な友人のアスペルガーのこども
- アスペルガー症候群の友人について
- 人との関わりのなかで
- アスペルガー
- 辛すぎる毎日に少しの希望の光がみえてきました
- アスペルガー症候群の友人
- アスペルガーを持つ人の症状と向き合い方
- 気持ちが読めないアスペルガー
- アスペルガーの高校受験
- 知り合いからアスペルガーじゃないのかと指摘された知人について
- アスペルガーのリーダーの下で仕事をして
- 私の姉はアスペルガー
- アスペルガーの息子と暮らして